私たちの話2022 / 06 / 06

研修日記 やまびこ・なかやま

乗馬で、毎日の生活を豊かに

南高愛隣会に入社して約1か月。福祉とは関係のない学科の出身で、事業サポート本部配属の私は、各事業所を巡り、実際の現場を見て学ぶ現場実習を行うことになった。これから約3か月の間、現場実習で起こった出来事や、そこで感じた思いを綴っていきたい。

5月16日、TERRCEやまびこ研修1日目。

TERRCEやまびこは諫早地区「LOCAL STATION FLAT(ローカルステーションフラット)」内にある生活介護の事業所。主に知的障がいや、自閉症などの強度行動障がいを持つ方々が利用している。

穏やかな日差しが降り注ぐ中、私たちが向かったのは、やまびこから徒歩ですぐの厩舎。

厩舎の周りを山や畑が取り囲み、辺り一帯にはのどかな風景が広がっている。

これから、乗馬の前に、利用者さんたちが取り組むのは、「ちからこぶ」と呼ばれる活動だ。ちからこぶとは、馬のボロ取り、つまりは、糞の運搬作業のことである。ちからこぶはその名の通り、力のいる作業だ。砂に紛れてあちらこちらに転がっているボロを火ばさみで拾い、かごに集め、袋に入れる。

「ちからこぶ」に取り組む利用者

 

スコップで数種類の材料を混ぜて、2匹の馬(ブラックベリーと、アレクサンダー)のえさを作る利用者さんもいる。

そんな様子を遠目で見守っているのは、馬が大好きで、ホースセラピー研究センターに所属する職員だ。

「馬を調教するには、馬を知ることが大切だ」と語る職員

職員によると、利用者さんが馬と触れ合うことには、2つのメリットがあるという。1つ目は健康維持しながら、楽しむことができるということ。

「昼間に思い切り体を動かしておくと、夜はぐっすり眠れます」。

この2匹の馬は、セラピー用の馬として調教されている。人が好きで、穏やかな馬であるため、利用者さんも自然と心が癒されるのだろう。

2つ目は、自分の役割を持つということ。「馬のお世話は、毎日同じことの繰り返し。○○をして、と職員に促されなくても、主体的に行動できます」。

特に自閉症の方々は、決められたルーティーンの中で動くことを得意とする。生活介護では、基本的に利用者さんは、職員に助けられることの方が多いが、乗馬では、利用者さん自らが動く。そこが魅力なのだろう。

作業が一通り終わると、乗馬が始まった。交代で乗る人と引く人に分かれ、馬場を2周する。

乗っては降りて、また次の人、と次々進む中で、最も引き付けられたのは、利用者のMさんの表情の変化である。

朝、自宅に送迎に伺った時、Mさんは、行きたくない、と玄関からなかなか出てくることができなかった。やまびこに着いてからも、少し表情が暗いように見えた。

そんなMさんが、馬にまたがった瞬間、ふわっと、顔を綻ばせたのだ。

「馬ってすごい、」そう思わされた。

私も乗ってみたいなーと心の中で念じていると、最後に、乗ることができた。

のしのしと馬が歩を進めるたびに伝わる振動が心地よく、馬と一体化したような、ゆったりとした気持ちになる。

福祉と馬、もっと言うと、人間と馬は相性がいい。

 

歩行から見える個性

5月17日、やまびこ研修2日目。

午前の活動は、ふれあい歩行。

やまびこから車で5分ほど行くと、ふれあい広場についた。

芝生が一面に広がり、散歩にちょうど良い。

やまびこ職員は、「広いので、気兼ねなく歩けます」と笑顔を見せる。

やまびこには、強度行動障がいの方が多い。

周囲の環境が本人に合わなければ、大きな声を上げて走り出したり、自傷してしまったりすることがある。

他に歩いている人も少なく、静かな環境で、誰にも遠慮しなくていい。ここは、そんないいことずくめの場所である。

利用者さんに付き添う職員(写真右)=ふれあい広場

利用者のKさんは、車から降りるとすぐに駆け出して、早歩きを始めた。

後を追っていると、その姿は徐々に遠のいていき、いつの間にか見えなくなった。

次にやってきたのYさん。周辺の草をむしっては、捨て、むしっては、捨て、を繰り返している。

その後ろからやってきたのは、Iさん。テレビの有名なCMを口ずさんでいる。とても楽しそう。

散歩する利用者さん=ふれあい広場

広場をぐるぐる回るだけだと思っていたら、そこに見えたのは、利用者さんそれぞれの個性だった。

 

一人一人に寄り添う 音楽教室

5月18日、TERRACEなかやま研修1日目。

TERRACEなかやまは「LOCAL STATION FLAT」内にある生活介護の事業所で、1人での食事や移動が難しい身体障がい者や、重度の知的障がい者が利用している。

午後の活動は音楽教室。

ほとんど全員がホールに集まった。

職員がタンバリンや、鈴、ベルを利用者さんの手に握らせる。

皆で「パプリカ」、「上を向いて歩こう」などの音楽に合わせて、踊る。

踊るといっても、体を揺らしたり、手をたたいたりするだけだ。

音楽が流れても、無表情で、何をしているかわかっていない様子の方も多い。

「音楽教室って、利用者さんにとって本当に楽しいのだろうか、少し難しすぎるのでは、」と考えてしまった。

一方で、周りの職員は彼らと視線を合わせたり、しゃがんで話しかけたり、手をとって手拍子をさせたりする。

しばらくその様子を見ていた。

すると、だんだん利用者さんの表情が明るくなってきたのだ。

声を出して喜んでいる人もいる。

音楽教室で踊る利用者さん

音楽教室で得られる体験は、音楽に合わせて踊ったり、歌ったりすることだけではない。一見、見えにくいけれど、その中には、集団の活動に参加したり、音楽を聞いたり、体を動かしたりすることも含まれる。

私たち支援する側にとって大切なのは、

体験の外側ではなく、内側の部分に注目すること。

その中で、利用者さんそれぞれの達成したい目標や、ねらいとするものに気づき、寄り添うこと。

そうした利用者さんへの思いがホール内で共鳴し、笑顔の輪が広がっていく。

音楽教室の後のボウリング大会の様子

 

自宅訪問 手探り支援

5月19日、なかやま研修2日目。

なかやま職員と朝から向かったのは、Uさんのご自宅。

Uさんは、自宅から出ることが難しく、週に一回、なかやまの職員が訪問している。

「今日はドライブに誘ってみようと思っています。」

職員は、そう微笑みながら、玄関の扉を開けた。

玄関からすぐの階段を上り、二階の部屋に入る。

そこには、ベッドに寝そべり、うつろな目をしている若い男性がいた。Uさんだ。

思わず、どう声をかけたらいいんだろう、と不安になった。

そんなUさんに職員は、積極的に話しかける。

「Uさん、今日は、私たちとドライブに行きませんか?」

何度も車の絵カードを見せ、行きましょう、と手を引く。

しかし、その表情は曇ったまま。

あきらめて、Uさんが好きだというポケモンの動画を見ることになった。

動画が始まって5分くらいたったころ、ピカチュウが出てきた場面で、Uさんは嬉しそうな声を上げた。

「ピカチュウかわいいですね」と話しかけると、少し表情が柔らかくなったように見えた。

動画が終わると、職員は、持ってきたポケモンのカードを広げ、「どのポケモンが好きですか」

と、穏やかな物腰で尋ねる。

答えないUさんに、「今度、好きなポケモン教えてくださいね」と言って、カードを片付けた。

なかやまで、自宅訪問を行っているのは、Uさんだけ。

まだまだ全体像が明確でない中、職員は利用者さんの表情や、肌で感じたものを基に、探り探りで支援方法の糸口を見出していく。

どれほど技術が発展し、利便性の高い世の中になっても、生身の人間の気持ちだけは簡単にコントロールできない。だからこそ、私たちは、どんな時でも焦らず、慌てず、心に余裕を持つことが大切だ。

利用者さんと笑顔で接する職員 =なかやま