学生が長期インターンシップにやってきました!
南高愛隣会を代表する事業の1つに、「罪に問われた障がい者・高齢者の支援」があります。
刑務所の中にいる人々の中には、知的障がいやその疑いがあるにも関わらず適切な福祉につながることができなかった人や、障がい特性のために犯罪に手を染めてしまう人が大勢いる、ということが、最近の統計で明らかになってきました。
南高愛隣会では2005年から、そのような方々が社会復帰できるように支える事業を行っています。
令和4年度から、長崎刑務所と連携したモデル事業も始まり、今全国から注目を集める先駆的な事業です。
今回、東京から弁護士を志す一人の学生がインターンシップにやって来ました!早稲田大学法科大学院卒 倉田 優花さんです。

今回は、倉田さんにいろいろとお話を伺ってみました。
―――倉田さんは、どうして南高愛隣会を知ったのですか?
倉田:もともと刑事弁護を専門に扱う弁護士になるために法学を学んでいたのですが、
その中で障がいのある人が起こした事件について伺う機会がありました。
事件としては大きなものではなく、量刑も軽いものだったのですが、自分では想像もつかないような行動に、衝撃を受けました。このとき聞いた話が、累犯障がい者、と呼ばれる事件について、どうしてそんなことをしたんだろう、本人にはどういう世界があるんだろう、と考えるきっかけになりました。
そんな中、弁護士事務所の勉強会に参加させてもらうことになりました。
その回のテーマが「障がい者の刑事弁護」で、その時講師を務めていた弁護士の
先生に、南高愛隣会のお話を伺ったのがきっかけです。
面白い法人があるな、もっと詳しく知りたいな、と思い、今回コンタクトをとりま
した。
―――南高愛隣会に来て、どういったことを学びたいと思っていますか?
倉田:一番興味があったのは、特定補導です。
全国の更生保護施設で最近始まったばかりの、新しい取り組みです。
累犯障がい者、と一口に言っても、そこに至るまでの動機は人それぞれです。例えば、依存症の影響で犯罪を繰り返してしまう人とか、違法行為と言われても「何が悪いのかわからない」人とか。そういった人たちの背景に合わせて、小さなグループでそれぞれのプログラムに取り組みます。認知行動療法を通じて、問題行動の原因となる認知のゆがみを取り除いたり、地域のボランティアに参加して、社会の一員として活動する経験をしたり。更生保護施設ならではの取り組みなので、とても興味のあったポイントです。

―――実際に現場に入ってみて、どうですか?
倉田:毎日すべてが新鮮で、楽しいです。
今は雲仙・虹の職員さんと一緒に、利用者さんの食事準備や服薬管理を手伝っています。丸一日利用者さんと接する、という体験は初めてで、当たり前かもしれませんが「福祉」の現場に来たんだな、と実感しています。
そうした福祉的な関わり方もとても楽しくて、触法支援の目標である「再犯の防止」を目指すためには、日常の中で信頼を積み重ねていくことが大切だな、と感じました。
はじめは犯罪防止学習や特定補導を学びたい気持ちが強かったのに、いまでは支援の仕事の方に力が入っている気がします(笑)

―――特になにか印象的なことはありましたか?
倉田:実際に犯罪防止学習の様子を見て、福祉の専門家は凄いなと感心しました。
現場を実際に見てみるまでは、学習というからには、まるで授業のように講師が前に立って、してはいけないことやその理由を説くものだと思っていました。
でも、実際には職員がシチュエーションを投げかけると、利用者さんたちから意見がどんどん出てくる双方向型の学習の場なんだとわかりました。
犯罪を「犯罪」として理解できない人に、わかりやすく伝える技術が詰まっていると思います。なぜ犯罪をしてしまうのか、なぜ犯罪なのか、どうすれば犯罪をせずにいられるか、細かく順序だてて考える場を設け、利用者さん自身の意見を拾い上げながら講義が進んでいく様子は、まさに福祉の専門家ならではの対話の技術だと思います。
なかでも特に印象的だったのは、利用者さんたちから間違った意見が出たときのことです。皆さん自由に意見を出し合うので、その中には間違った解決法や考え方が出てくることがあります。そんな時でも、その意見を即座に否定するのではなく、受け止めて議論を盛り上げる材料にしていったのが特に印象深かったです。講義の終わりにはきちんとフォローも入れて、より学びを深める材料にしていました。
誰のことも取り残さず、いろいろな人の考え方をまとめる姿勢は、福祉ならではだなと思いました。

―――慣れないことも多いと思いますが、特に難しいと思ったことはありますか?
倉田:利用者さんとの距離感に、特に気を使います。物理的にも、精神的にも。
利用者さんの中には性犯罪を起こした方もいるので、自分が女性ということもあって、座る位置ひとつとっても難しいと感じます。
特に自分自身、「どんな人であっても対等に接したい」「壁を作らずに話したい」という思いが強く、近づきたいと思うあまり距離感を誤ることもありました。
精神的にも同じで、「利用者さんの過去は、本人が話さない限り聞かない」とか、「深い話題には踏み込まない」といったルールに気を使いました。
「一線を引きつつ、対等に接する」という難しさに、日々試行錯誤しています。
―――半月経ちますが、雲仙での生活には慣れましたか?
倉田:はい、慣れました(笑)
桑田地区のグループホームだった施設をお借りしているのですが、受け入れ初日はあまりの田舎具合に衝撃を受けました。東京とは「最寄り駅」の感覚からして違うので、ギャップがすごかったです。
今では自炊もしていますし、家に突然大きな虫が出てきてもなんとかできるようになりました。ついこの間、人生で初めて灯油ストーブを使いました。グループホームだった場所なので広々として寒いのですが、暖房よりあったかくていいですね。
なにより、虹の職員さんをはじめとする雲仙の職員の皆さんがとても気を使ってくださるので、本当に助かっています。
交通の弱い私をお買い物に連れて行ってくれたり、温かい声掛けがあったりと、職員の皆さんの存在が支えになっています。
実際に雲仙で過ごすようになって、南高愛隣会のことが好きになりました。

(好きな動物は猫。虹の猫たちも日々の癒しとのこと)
―――休みの日は充実してますか?
倉田:とっても充実しています。いろいろな所に遊びに行く機会があって、休みの日も楽しく過ごしています。
来てすぐのころには佐賀のバルーンフェスタに行ったり、ついこの間は大学の友人と誘い合わせて熊本観光に行ったり……って、なんだか長崎県外ばかりですね。
九州に来ること自体が新鮮なので、今のうちにいろいろ遊びにいきたいなと思っています。
今度は、別の友人とハウステンボスに行く約束もしています。他にも長崎市内を観光したり、まだ行ったことのない県に足を伸ばしたり……、勉強以外にも、やりたいことがいっぱいです。
―――将来は、どんな弁護士になりたいですか?
倉田:将来の夢は「生きづらさを抱えた方に寄り添い、支援ができる弁護士」です。
罪を犯した人の中には、障がいや貧困、社会的な孤立など、さまざまな“生きづらさ”を抱えた方が沢山いらっしゃると思います。
その人は、誰かにとっては「加害者」ですが、適切な支援に結び付くことができなかったという意味では、ある意味「被害者」なのではないかと思うんです。
なので、将来は弁護士として法的な支援をするだけにとどまらず、福祉の世界とも連携して、クライアントを総合的に支える弁護士になりたいと思います。
生きづらさを抱えた方が、少しでも生きやすくなるサポートができるような、そんな弁護士になりたいです。
夢を追いかけて、はるばる長崎にまでやってきた倉田さん。
彼女の夢を、南高愛隣会は応援しています!
