私たちの話2026 / 07 / 22

長崎刑務所モデル事業 職員の “声” 


長崎刑務所モデル事業(以下 モデル事業)は令和4年10月から開始され、5年間のスパンで、令和9年3月をもって終了となります。

今回、プログラム管理者を務める、阿部さんにお話を伺いました。

阿部さんは、平成18年から開始された厚生労働科学研究「罪を犯した障がい者の地域生活支援に関する研究」(田島班)に携わり、リ・エントリーワーク事業「あいりん」を担当していたこともあり、長年、南高愛隣会の「司法と福祉の連携」に携わってきたベテラン職員です。


阿部 百合子 さん (写真左) 


ー長崎刑務所モデル事業とは、そもそもどんなものでしょうか。

九州管内の各刑務所から、知的障がい者を長崎刑務所に集約し、特性に応じたプログラムを提供します。
長崎刑務所が選ばれた理由として、もともと南高愛隣会と以前から包括協定を結んでおり、連携がしやすいからでした。具体的な流れとして、福祉アセスメントと就労アセスメントを実施し、その人に合った処遇計画を立案します。その後、ビジネスサポートコース、福祉的就労コース、福祉サービス利用コースの3つから最も適当なコースを選びます。プログラムは4ヶ月間で、受刑者の定員は50名、実際は30-40名で実施されています。   

ー「知的障がいを持ち、かつ、罪を犯した方」。そんな方と接する上で、どんなことを意識していますか?

最初のアセスメントで、前向きな雰囲気を出すことを意識しています。アセスメントとは、「プログラムへの動機づけ」を行う時間でもあります。「長崎刑務所の職員と福祉の職員(南高愛隣会)が連携して、あなたが二度と刑務所に戻ってこないように色々なプログラムを行います。一緒に学んでいきましょう。」と、前向きに伝える必要があります。また、療育手帳を持っていない人には、いきなり「障がい」という言葉を出さない様に気を付けています。


ー職業アセスメントと、福祉的アセスメントについて、より具体的に教えてください。

職業アセスメントとは、最終的には一般就労可能か、福祉的就労(A型・B型)が妥当か、就労は厳しいか、とコースの選定に助言します。ジョブコーチ(職場適応援助者)の資格を有する職員が刑務作業を観察し、刑務官からの聞き取りを含めて、日常生活・対人関係・行動・態度の視点から評価します。
福祉的アセスメントとは、出所後の暮らしや仕事の希望、福祉サービスや療育手帳取得についての意向、プログラムの目標を尋ねるという、今後の生き方に対するアセスメントです。 


ーモデル事業に取り組む受刑者の反応にはどんなものがありますか?

実は現状では、ほとんどの方が積極的に取り組んでいます!
プログラムは、4か月間を1クールで行うので、週1回で全部で計16回、隔週だと8回の構成となっています。最初は消極的な人も、後半になるとコミュニケーションが取れ、関係性が出来てきます。だんだんと積極的、能動的な態度に変化する傾向があります。


ー処遇計画に基づいたプログラムについて、和太鼓・絵画など、南高愛隣会ならではの楽しみなプログラムも盛り込まれているんですね。

和太鼓については、皆、真剣に取り組んでいます。最後の16回目が発表会であり、衣装(法被)を着て課題曲を披露する、という大きなテーマがあります。「人前に出る発表会は苦手」という人もいますが、練習を重ねていくと意欲が生まれ、緊張の中にも達成感をもって発表会に臨むことができるようになります。刑務官も多く見学に来られ、発表会の後に修了証を渡すようにしています。 
絵画についても皆、真剣に集中して取り組んでいます。すぐに作品が出来る人、じっくり仕上げる人、想像力がある人、何かを見ないと進まない人、様々です。完成後は、額装して飾ります。毎回、どんな気持ちでこの作品を制作したのかを発表する時間を設け、美術の先生より評価していただいています。


ー療育手帳の取得について

全国調査では、知的障がい受刑者のうち、3割は療育手帳を持っています。長崎刑務所では、もう少し多くの人が療育手帳を持っているように感じますが、長崎刑務所内で保管している人は少なく、手帳がどこにあるのかわからない人も多いです。手帳取得自体を拒む人も中にはいます。障がい受容には至らない人や、時間を要する人もいるので、それもその人の自己選択として受け止め、無理に勧めることはしません。しかし、困った時の相談先は必ず情報提供するようにしています。


ー最初のアセスメント時と比べて、プログラムを経て、受刑者に何か変化は見られますか?

出所後の就労先について、一般企業ではなく、就労継続支援B型で働きたい、と希望する人が多い印象です。援助希求と言って、困った時は誰かに相談しようとする意識の変化が見られます。自己肯定感も向上し、良いことだと思います。しかし同時に、具体的な相談先をもって出所する、ということが今後の課題でもあります。社会復帰調整における「息の長い支援体制構築」が必要です。 


ーモデル事業に関わる職員について、どんな職員が、どんな思いで関わっているのか教えてください。

基本的に、自ら希望する職員に関わってもらいます。年1回の配属希望調査において、罪に問われた障がい者・高齢者支援を希望する職員へこちらから打診しています。新規で関わることになった職員には、モデル事業の概要説明、長崎刑務所で業務をする際のガイドライン、プログラムの見学から入ることになります。
参加職員へアンケートを取ったことがあります。「知的障がい受刑者への認識が、普段接している利用者と変わりがないと感じました。」「本来であれば、早くから福祉が関与したり、特別な教育を受けるべき人が、その機会に出会うことなく過ごしてきた人、という認識を持ちました。」などの感想が出ました。
知的障がい受刑者は「特別な人」ではなく、ベースは「知的障がい者」と、理解が深まっているのではないかと思います。また、「刑務官や他機関の職員との関わりの中で、新たな知見の広がりや刺激をもらい、モチベーションが上がる」という意見もありました。